| デザイナー's コラム 『京都をあるく』 【ザ・シーズン本山 担当/小田 純衣】2007年6月【ザ・シーズン本山のページへ】 | |
住宅のデザインは、現在流行しているモダンスタイルをはじめとして、和風・洋風(英国風、南欧風、北欧風etc)、ナチュラルテイストなど、実に多くのスタイルが存在します。背景として、交通網や情報網の発達により、海外の情報やライフスタイルが日常に浸透してきたことで、私達の趣味やライフスタイルも大きく変わったことが影響していると思います。朝は椅子とテーブルでパンとコーヒーの朝食を食べ、車で出勤し、エアコンの空調の中で過ごして、夜はベッドで眠る・・・。今やこれらは、「当たり前の暮らし」であり、快適な暮らしと自分好みに囲まれた生活を追及した結果、昔のままの住宅ではなく、様々なスタイルの建物が求められるようになりました。
お客様のご趣味やご要望を取り入れた、エクステリア・ガーデンを質の高いデザインで提供するのが、ザ・シーズンの仕事。様々なスタイルを表現してゆく時、表面の形だけにとらわれず、スタイルが成立した背景を知り、本質を理解することは大切です。美しく完成された街や住空間・庭を、見て、歩いて、暮らして、体験する。それらを通して感じたことをデザインに取り込みたい・・・、そんな思いから、毎年訪れる京都で見た事柄をご紹介したいと思います。
昔ながらの伝統と現在の暮らしが美しく融合する「京都」。昔ながらの町割りが残り、ヒューマンスケールでつくられている街は歩いて散策するのが最適です。
京都のお寺やお庭巡りで街を歩いていて気付くのは、快適だと思う場所の多くは、景観への配慮がある、ということ。建物や舗装材などの素材が統一され、色調が周囲となじむように使われています。日本建築だけでなく、円山公園内にある明治時代の洋館、「長楽館(ちょうらくかん)」の外構では、京都の街で使われているのと同じ材料(御影石)が用いられ豊富な緑に囲まれているため、洋風建築でありながら違和感なく周囲の景観と調和しています。
![]() 京都の赴きある散策路。 舗装は白御影石をアクセントにしたデザイン。 | ![]() 夕暮れ時の風景がどことなく艶っぽい祇園界隈。舗装に使われている のは白御影石。 |
![]() 歩くのが楽しくなるようなアプローチとお庭。お客様への おもてなしの心も感じられます。 | ![]() 長楽館(ちょうらくかん) 明治時代の実業家で「煙草王」と称された、村井吉兵衛の京都別邸。 |
もう一つ、京都で感じるのは、伝統的なものと現代的なものを融合するのがとても上手、ということ。
「伝統」というと、「受け継ぐ」・「守る」もの、と思いがちなのですが、千年以上の歴史を持つ京都を巡っていると、「歴史と伝統の延長線上に今がある」と思えてきます。
例えば、東福寺・本坊の北庭。昭和の名匠・重森三玲が作庭した庭で、それまでの日本庭園にはなかった発想で造られています。伝統的な日本の文様である市松を杉苔と敷石で地面に描いた、モダンな雰囲気の庭です。
又、京都の街中の商業施設にも、和の要素を活かしたものが多く見られます。町屋を改装したり、現代建築に和を取り込んだカフェや飲食店、ギャラリー、などなど。和の空間の中でいただくコーヒーや洋食もしっかりと馴染んでいて、異文化を自分の文化に融合して消化しているセンス、さすが京都です。
![]() 元祖、和風モダン?! 東福寺本坊北庭。石はお寺の中で使われていた 敷石をリサイクルしたものだそう。 | ![]() 京阪三条の商業複合施設「KYOUEN」。 日本庭園の要素を斬新にデザインして作られたモダン和風の庭。 |
![]() イノダコーヒー 清水支店 蔵のような建物の中でいただくコーヒーも京都散策の楽しみの一つ。 | ![]() 鴨川沿いで見かけた飲食店。 町屋とモダンが融合した建物です。 |
京都の街に残る「町家(まちや)」。町家とは、昔から町人が暮らしてきた民家のことで、間口が狭く、奥行きが深いのが特徴です。間口が狭いといえども、建物と庭(坪庭・中庭)が上手く配置されているので、実際の面積よりも広く感じ、限られた敷地が快適に演出されています。
中庭は「眺める」だけのものではなく、「光と風の通り道」でもあるそうです。盆地の地形上、夏が暑い京都。日差しが照りつける表通りを歩いて、町家に一歩入ると思いの外、涼しいことに驚きます。実際に住んでいる方にお話をうかがうと、夏はエアコンを使わないとのこと。環境への配慮が必要な今の時代、町家から学べることがたくさんありそうです。
![]() 部屋の奥に造られた中庭。 畳の暮らしでは床に座る生活だったため、庭も座って眺めると美しい。 | ![]() 通りから町家の中に入ると中庭が。 人・光・風の通り道。(堺町画廊) |
観光で京都を訪れる時、気軽に京都の町家を体験できるのが、改装してギャラリーやカフェとして公開されている場所。今回は、学生時代の友人(陶芸作家)の個展が開かれているのがきっかけで、訪れた町家、堺町画廊を紹介します。
堺町画廊は、明治の初年頃に呉服屋として建てられた町家で、建物を現在のオーナーさんが、かつて台所だった空間を活かして、アーティストの発表の場として公開している画廊です。昔ながらの三和土(たたき)の土間、土壁、庭を通る光や風が美しく、落ち着いた空間です。
現代の美術館やギャラリーの多くが、白い壁・天井の中で作品を際立たせるように展示しているのとは違い、町家の空間の中では、作品と空間がなじみ、美術品は暮らしの中に溶け込んでいたものであったことに気付かされます。
![]() 堺町画廊の入り口 日本建築に「SAKAIMACHI GAROW」の表札が見事にマッチしています。 | ![]() 昔から使われている郵便ポスト。 真鍮の口金が使い込まれて、いい風合いに・・・。 |
![]() 土壁は、土と藁に水を混ぜて練った自然材料でできているそう。ここに居ると、 光と空気がやわらかくて、とても気持ちいいのです。小さな作品達も気持ち よさそうにたたずんでいます。(作品制作:下村順子氏) | ![]() 昔、台所だったスペースを展示空間として活用。 (展覧会の様子は「堺町画廊」HPの「履歴」より、 「今年の展覧会」−「展覧会スナップショット」をご覧 下さい。) |
「美と云うものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを余儀なくされたわれわれの祖先は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った。」谷崎潤一郎の著書『陰翳礼賛』では、芸能をはじめとして調度品、食器、衣装・化粧、料理など、日本文化は、日本建築の内部にできる陰翳の中でこそ真の美しさを発揮すると述べられています。文明開化以降、欧米からの影響によって電気が普及し、建築や生活スタイルが変化していく中で、新しく便利なものを盲目的に取り入れるのではなく、日本人が元来持っていた日本の美意識を真摯に見つめ直すことの大切さを教えてくれています。
すっかり便利な暮らしに慣れてしまった今、日常生活で陰翳の美を感じる機会が少なくなってしまいましたが、京都には、寺院・お庭、町家など、陰翳の美に触れることができる場所がたくさんあります。
![]() 日本建築の造りによってできる陰翳(いんえい)。 まぶしい陽光は障子を通って室内のほのかな明かりとなる。 | ![]() 西洋の庭や建築が、明快さを求めるのに対して、 日本庭園は、奥ゆかしさ・見え隠れする美を 求めます。陰翳が庭の奥行きを増しています。 |
美しく完成された文化を体験することは、日常の生活や視点に豊かさや奥行きを与えてくれます。文化とその背景を知り、自分なりの「ものさし」にして、ライフスタイルやデザインを考えてゆくことで、表面的なモノではなく、必要性・機能性、文化的側面に裏付けされた「カタチ」になってゆくように感じます。
私自身は、和風の庭や外構よりも、モダンや洋風のデザインを手掛けることが多いのですが、日本文化との比較を通して見えてくるものを大切にして、他のデザイン様式についても理解して良いものを作っていきたいと思います。